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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)2818号 判決

【主文】

一  被告日本共産党は、本判決確定の日から七日以内に、毎日新聞、朝日新聞、読売新聞の大阪版及び愛媛版の朝刊と被告日本共産党中央委員会機関紙「赤旗」の各紙に、たて二段抜き、横一〇センチメートル程度のわく内に、別紙四記載の謝罪文を、表題の「謝罪文」を四号活字、末尾の被告名と名宛人を各五号活字、本文を八ポイント活字を用いて掲載せよ。

二  被告元岡稔は、本判決確定の日から七日以内に、毎日新聞、朝日新聞、読売新聞の愛媛版の朝刊各紙上及び本判決確定後最初に発行される訴外有限会社愛媛民報社発行にかかる「愛媛民報」紙上に、別紙五記載の謝罪文を、それぞれ前一同様の体裁をもつて掲載せよ。

三  被告日本共産党は原告らに対し、各金二〇万円づつ及びこれに対する昭和四九年八月二〇日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告元岡稔は原告らに対し、各金一〇万円づつ及びこれに対する前同日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らの被告井上定次郎に対する請求及び被告日本共産党、被告元岡稔に対するその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用中、原告らと被告日本共産党及び被告元岡稔間に生じたものは同被告らの負担とし、原告らと被告井上定次郎間に生じたものは原告らの負担とする。

【判旨】

〔本件発言及び記事・論評の内容〕

一原告らがいずれも弁護士であつて、本行政訴訟(いわゆる伊方原発行政訴訟。第一審松山地方裁判所昭和四八年(行ウ)第五号原子炉設置許可処分取消請求訴訟)の原告らの訴訟代理人となつた者であること、昭和四八年九月一六日愛媛県大洲市農業会館において「いのちとくらしを守る南予県民集会」(本件集会)が開催され、その席上で党県委(日本共産党愛媛県委員会)副委員長であつた被告元岡が本行政訴訟の弁護団の構成等に関する発言をしたこと、「愛媛民報」及び被告党の機関紙である「赤旗」がそれぞれ請求原因2(二)及び(三)における原告ら挙示の記事・論評欄において、原告らが摘出引用するような文言を含む記事・論評を掲載していること、以上の事実は当事者間に争いがない。

原告らは、右被告元岡の発言中「本行政訴訟は国民の基本的権利で支持できる。しかし社会的にも犯罪者集団として信用のないトロツキスト弁護土が主要な役割を果たす裁判闘争は最初から敗北の路線を走るものだ」との個所及び前記「愛媛民報」並びに「赤旗」の各記事・論評(その請求原因に摘示個所)は、原告らを「社会的に犯罪者集団として信用のないトロツキスト弁護士」であるとか「住民運動に分裂を持ち込むトロツキストの一味」ときめつけ及び「原告らが代理人であれば本行政訴訟は敗訴する」として原告らの名誉を毀損するものであると主張し、被告らは、被告元岡の発言内容を争い、また右各記事・論評につき原告の引用個所は、いずれも不正確であると抗争するから、まず、被告元岡の発言及び本件各記事・論評の内容を確定する必要がある。

しかして、被告ら主張の被告元岡の発言及び本件記事・論評の内容は、原告ら主張のように、原告ら自身がトロツキストそのものであるとしたり、本行政訴訟が原告らが代理人であることによつて敗訴すると指摘したものではなく、原告らが「トロツキストにつながる弁護士」であると指摘し、そのようなトロツキストにつながる弁護士が本行政訴訟の代理人になつたことで、伊方原発設置反対運動全般へのトロツキストの介入を容易にし、該反対運動そのものが敗北の路線を辿ることとなる虞のあることを警告したものだというのである。

二そこで、被告元岡の発言及び本件記事・論評の内容がいかなるものであるかにつき順次判断するが、まずいずれも成立に争いのない各挙示の証拠によつて、「愛媛民報」及び「赤旗」の記事・論評の内容(いずれも昭和四八年のもの)を確定し、次いで被告元岡の発言内容を判断する。

1 「愛媛民報」について

(一) 九月二三日付五八五号(甲第一号証)一面の記事

「南予県民集会原発訴訟で鋭い論争・強力な弁護団構成を」の大見出しと「共産党が提唱・トロツキストでは敗北」の副見出しの下に一五字詰七八行の記事である。始め一六行に、本件集会の開催と、そこで「伊方原発反対闘争を正しく発展させる問題をめぐつてはげしい論議がおこなわれ」たが、その焦点となつたのは本行政訴訟問題であるとしたのに続け、一六行目から三二行目までに「この訴訟は、伊方原発反対闘争を“第二の三里塚闘争”へ導びこうとしている暴力学生集団などトロツキストたちが、現地住民が知らないことをいいことにして、弁護団の中心にトロツキストやその同調者をひき入れておこなつたもの。したがつて、このままでは、広範な民主勢力や国民の大きな支援をうけて裁判闘争をすすめることは困難なことは明らかで伊方原発の正しい発展のため早急にトロツキストとその同調者の弁護団を排除し、民主勢力の一致のえられる弁護団構成を実現することが必要になつているものです。」と続け、三三行目以下四八行目までに「このためこの日の集会では、共産党代表などから『行政訴訟は国民の基本的権利で支持できる。しかし、社会的にも犯罪者集団として信用のないトロツキスト弁護士が主要な役割を果たす裁判闘争は最初から敗北の路線を走るものだ、全国的な全民主勢力の支援をうけてたたかいに勝利するためにも、長沼ナイキ裁判や松川裁判など大きい実績をもつ総評弁護団、自由法曹団による数十人の強力な弁護団でたたかうことが必要だ』との主張がおこなわれ、トロツキストに対する民主勢力内部での甘い評価がきびしく批判されました」と報じ、続いて四九行目以下六九行目までにこれに対する宇和島市労連の一青年労働者の『はじめからトロツキストときめつけ排除するのは四国電力などをよろこばすものだ。問題が出た段階で克服すればよい』との発言及び社会党南予総支部山崎某の『行政訴訟の弁護団がトロツキスト弁護士とは思わない。…(中略)…必要なら原告の同意のとに(「もとに」の誤記か)総評弁護団などを補充すればよい』との発言を採り上げて、前者につき「…と主張し、トロツキスト弁護士を擁護しつづけました。」と、後者につき「…という弁護士補充論などがだされ、同党のトロツキストに対するあいまいな態度が注目されました。」と評し、七〇行目以下の結びの部分で、本件集会では「結論は出しませんでしたが、トロツキスト主導型の行政訴訟に対する批判と同訴訟を正しい方向に発展させることの必要性が、南予の民主勢力の中で公然と論議された意義はきわめて大きなものであります。」という記事である。

(二) その「うず潮」欄

同じく甲第一号証の一面に掲載された一三字詰七七行(うち一四行は一〇字詰)のコラム欄である。始め三三行目までに、最近のトロツキスト暴力学生集団の蛮行は目にあまるものがあり、かれらが民主勢力のたたかいとも学生運動とも無縁の存在であるのに、国民の中にはかれらが革新・民主勢力の一員であるかのように思つている人がたくさんいること、政府・自民党や警察はそれをいいことにして、これを泳がせ、かれらの盲動を反共宣伝に利用しているから、すべての民主勢力は、反動勢力のこのようなたくらみを許さないためにも、トロツキスト暴力集団にたいする糾弾をつよめ、彼らを孤立させなければならない旨を説いた後、三四行目から四一行目にかけ、本件集会で「こうしたトロツキストを弁護し、彼らを伊方原発反対闘争から放ちくすることに反対することを主張するものがいたことは注目されます」とし、続けて六四行目までに「その人物は、共産党の代表が伊方原発反対の行政訴訟の弁護団の中心がトロツキストとその同調者で占められていることを指摘し運動の正しい発展のためかれらトロツキスト弁護士らの排除と自由法曹団や総評弁護団など社会的政治的権威のある弁護団による裁判闘争の必要を主張したのに対し、「かれらも原発反対という点では同じだ、それだのにかれらを排除せよというのは四国電力などをよろこばせるものだ』などといつて、あくまでトロツキストとその同調者たちを擁護しつづけ、ついに最後には共産党代表にたいし、『おまえよりもましじや」ときたないヤジをとばしてみせたのです」と解説し、最後に「トロツキストたちに指導された闘争がどんな結末をみせるかは、」「トロツキスト弁護士による各種の裁判闘争の結果がはつきり示しています。」として「伊方原発反対闘争へのトロツキスト暴力集団の介入を一瞬たりとも許」してはならない旨を説いている。

(三) 九月二日付五八二号(甲第三号証の二)二面の記事

下三段抜き「原発訴訟・弁護団にトロツキストら」の大見出しと「共産党・闘争の正しい発展をめざす」の副見出しの下に一五字詰六一行の記事である。始め一二行目迄は本行政訴訟の提起されたことを報じ、一三行目から三六行目までに「日本共産党愛媛県委員会原発対策委員会責任者三宅清昭氏の話」とのゴシック中見出しの下にその話の内容を掲げてあり、うち一五行目から二三行目迄は「わが党は提訴がすべての民主勢力との協力、共同の輪をひろげる結果をもつよう弁護団は自由法曹団や総評弁護団で構成することを訴えてきた。しかし今回の訴訟の弁護団は反共分子やトロツキストが介入しているところに問題があると考えられます。」とあり、二四行目以下には「わが党は伊方原発反対のたたかいについて、この安全性とともに瀬戸内海をこれ以上、汚染させない立場で、もつとも早くからとりくみ、現地常駐オルグを派遣するなどして住民とともにたたかつてきた。法廷闘争においても現在、四国電力と住民の対決点となつている土地裁判や公有水面埋立免許取り消し訴訟などを中心にたたかつていくし、さらに原発反対のたたかいが正しく前進するために奮闘していく決意である。」となつている。三七行目以下は、田中首相の閣議発言に対する批判で本件に直接関係はない。

(四) 九月二三日付五八四号(甲第二号証の二)三面の記事(なお本号は、九月二三日付とあるが、通号数に照らし一六日付の誤りと思われ、甲第一号証には「おわび」と題してその旨の訂正記事が掲載されている。)

「伊方原発に関する行政訴訟について」と題する社説欄で一六字詰一一七行(但し始め一〇行は六字詰)の論説。冒頭一三行目迄に「伊方に常駐しているトロツキスト分子は、関西地方のトロ学者やトロ弁護士らとともに、一部の社会党系幹部と組んで」本行政訴訟を「独善的に強行させました。」とし、一四行目以下六六行目迄に、内閣やマスコミのこれに対する対応と評価につづけ、「トロツキストが右マスコミ宣伝にのつて、この行政訴訟をかれらの政治的カンパニヤに最大限に利用して住民運動への介入をつよめるとともに南予ブロツク県民集会における行政訴訟の位置づけをめぐる論争にみられるように、県下の民主運動への否定的影響と分裂をもちこもうとしてい」るとと説き、本行政訴訟は「県内民主勢力が一致して強力にとりくめるようにすることが重要であ」るが故に「弁護団構成も自由法曹団、総評弁護団の支援を得て強力な弁護団をもつて当る必要が」あるとし、日本共産党はこの立場から「トロツキスト分子の介入を許さないようにすることを再三にわたつて提案してきましたが、この位置づけを明確にしないまま提訴されるものとなりました。」として、土地訴訟や公有水面埋立免許処分取消訴訟の支援に消極的なまま、本行政訴訟を独善的に強行させることは、裁判闘争を二分し、否定的影響をも与えかねないとしたうえ、七七行目以下九九行目までに重ねてトロツキスト分子が本行政訴訟を利用しつつ「原発反対闘争の主導権と愛媛の民主勢力の中に市民権の確立をはかり、」「民主勢力の分断と挑発の基盤拡大をねらつている」ことを現地の労学共闘の行動や浅間山荘事件などを引用して縷説した後、一〇〇行目以下の結びの部分の前半に「このようなとき、民主勢力にとつてもつとも重要なことは、かれらの本質を正しくつかみ、かれらを民主勢力の妨害者として排除してたたかうことが重要です。行政訴訟においても全民主勢力が一致してとりくむことができ、たたかいの勝利の展望をきりひらくために最低現在の代理人のトロツキスト弁護士を排除し自由法曹団、総評弁護団による信頼できる強力な弁護団にきりかえさせることが必要です。」としている。

他に同号三面中本件関連記事は見出せない。

(五) 一一月四日付五九一号(甲第七号証の二)二面の記事

下四段の大きな囲み記事で「伊方原発を考える<5>」「トロツキストの役割」として、中央に「運動に分裂もちこむ」の大見出しと「見通しなく激突で県民から離反」の副見出しの下に一四字詰一一七行(一部一六行分は七字詰)の記事。一四行迄に「労学共闘)が一〇月二八日に反公害シンポジウムを開催し、翌二九日に現在で里道奪還闘争現地行動を起こしたことを報じ、一五行目以下七一行目までに、右行動に一〇〇人余の参加があつたことは「トロツキストが伊方原発闘争を彼らの盲動の拠点としていかに重視しているかをしめしている」としたうえで、大学紛争や連合赤軍事件で「本質的には政府、自民党におよがされ、財源、方針指導まで受けているという権力とゆ着した実像がより明白になり、民主運動には介入の道を閉され、国民の総スカンをくつた暴力集団」が昨年二月から『伊方を第二の三里塚に』として、原発反対運動に介入して暴力事件をひきおこしていると説き、「こうしたことが県民のなかに、原発反対運動がなにか暴力的という印象を与えたほか、たたかいにとつては意義はありませんでした。」としたうえで、七二行目以下に「この暴力について住民側が批判を集中するとマヌーバー(擬装)で戦術をかえ、」「住民の一部に『いつしよにやれる』という気持を植えつけ」るとしてから八〇行目以下に「とくにこの巧妙さでたたかいの最大の課題かのように住民のなかに持ち込んだのが、トロツキスト弁護士主導の『原発行政訴訟』。訴状内容では政府の安全性無視の原発開発の問題点をつくものとなつているものの、この裁判を勝訴に導けるのに必要な全民主勢力、ほかの原発反対住民組織との連帯などまつたく考慮しないもので大きな問題点を持つています。ここにはトロツキスト一流の展望のない方向がありありと現れており、共産党が指摘するように、『敗北の路線』でしかありません。したがつて同党では勝訴に導くためには、弁護団構成を総評弁護団、自由法曹団に差しかえ、全民主勢力が一致できる体制でとりくむべきだと提唱しています。」とし、一〇六行目以下に「しかし、社会党はこの訴訟支援を決め」たので、本行政訴訟は、「暴力集団のならいどおり、民主勢力の分断という効果をあげてい」るので、「原発反対闘争から暴力学生を排除すること」はきわめて重要な問題となつていると指摘している。

2 「赤旗」

(一) 八月二八日付三宅清昭談話

(甲第四号証)

「伊方原発工事中止を・住民、国相手に訴訟(愛媛)」なる見出しの下に伊方原発反対八西連絡協議会のメンバーらによつて本行政訴訟が提訴されたこと、従来の異議申立とその却下の経過、請求原因の骨子を一五字詰三八行に亘り平板に解説・報道した記事を掲げた後に「反対闘争の正しい前進へ奮闘」なる中見出しを付けて掲出したもの。その全文は「(本行政訴訟)についてわが党は提訴がすべての民主勢力との協力、共同の輪をひろげる結果をもつよう弁護団は自由法曹団や総評弁護団で構成することを訴えてきました。しかし今回の訴訟の弁護団は反共分子やトロツキストが介入しているところに問題があると考えています。わが党は伊方原発反対のたたかいについてその安全性とともに瀬戸内海をこれ以上汚染させない立場でもつともはやくからとりくみ、現地常駐オルグを派遣するなど住民とともにたたかつてきました。法廷闘争においても現在、四国電力と住民の対決点となつている土地裁判や公有水面埋め立て免許取り消し訴訟などを中心にたたかつていくし、さらに原発反対のたたかいが正しく前進するために奮闘していく決意です。」となつている。

(二) 一一月一三日付「揺れる原発(上)」欄(甲第五号証)

「安全問題法廷に・一年間の死の灰広島の一千万倍」との見出しの下に中国・四国地方で立地・計画中の三原子力発電所につき、なぜ住民の抵抗があるのかを現地の実情に探つてみた記事である旨の紹介前文に続く一五字詰一六〇行余りの論説。始め四五行目までに、従来の伊方の現地で住民が賛否両派に分かれ、敵味方に似た状況が生まれ、苦悩をしいられる中で、反対派住民が幾多の抗議集会等を続けて来た旨を述べ、続いて四六行目以下六二行目迄に住民は、公有水面埋立免許取消請求訴訟、山林伐採・土地侵奪についての告発と本行政訴訟などにより原発の安全性を一貫して追及していると報じ、六三行目から一三四行目迄に国による本行政訴訟の答弁書にも触れ、これに対する反論も交えて原発の危険性に対する所見を展開したのに続け、一三五行目以下に「ところで、法廷に対決の場を持ち込んだ伊方の住民の原発反対闘争にかげを落とし、複雑にさせている問題があります。(本行政訴訟)に、これまであらゆる民主勢力のたたかいに分裂と紛争のたねを持ち込み、各地の住民運動を混乱におとしいれてきたトロツキスト集団が介入し、弁護団の中にもかれらの一味が加わつていることです。共産党愛媛県委員会は、この動きが出たとき『それでは県内民主勢力の一致した支援を得られない。せつかくの訴訟が敗北路線を走ることになる』と警告しました。しかしトロツキストは“支持してくれる者はだれでも”という素朴な住民の感情につけ込み、自分たちの正体がまだ理解されていないのを幸いに、食い入るのに成功しました。子孫に不安のほどを残さないよう、公害を未然に防ぎ、平和な郷土を守ろうと、あくまで原発建設に抵抗している伊方の住民は、まだ多くの苦難を乗り越えなければならないようです。」と結んでいる。

3 被告元岡の発言

(一) 右「愛媛民報」五八五号の記事(一面記事とうず潮欄)と<証拠>を総合すると、本件集会における被告元岡の発言に至るまでの経過を次のとおり認められ、前掲各証言及び供述中これに反する部分はたやすく措信できない。

本件集会は「清潔で明るい愛媛を作る会」「いのちとくらしを守る愛媛県実行委員会」「地方自治研究愛媛県委員会」の共催で、東、中、南予の各ブロツク毎に開催されたうちの一つであり、元岡発言のなされた第二分科会は、全体集会に続き、同じ場所で「伊予灘(長浜・伊方)の公害と安全」をテーマとして、一〇〇名近くの人数が参加し、訴外井上利一、中井正高の司会により進められた。その議題は主として長浜臨海工業地帯の埋立に伴う公害問題と伊方原発問題についてなされ、これらに関する住民運動に対する政党・労働組合等の支援をめぐつて二、三の発言がなされ、司会者の井上から、既成の政党・労組は住民運動に対して力の入れ方が足りないのではないかとの問題提起がなされ、本行政訴訟の原告団長格である川口寛之からは政党の言いなりになるのはよくないが、住民運動の自主性を守りながら、政党・労組その他の団体の支援を受けていくのが望ましい旨の発言がなされるなどした後、右井上から本行政訴訟の支援態勢について論議を進め度い旨の発言があつた。これを受けて、宇和島の共産党と名乗る者など数名から、本行政訴訟について「トロツキスト弁護団によつてなされたので、この弁護団をやめさせなければならない」旨の発言があり、これに対し井上から「弁護団の名前や顔を知つているのか、そういうことを知らないでトロツキストと非難するのは乱暴ではないか」との発問がなされ、これをめぐつてまた会場内は、「証拠はあるのか」とか「資料が存する」などの発言が飛び交つたが、その項、他の分科会を終え、しめくくりの全体集会のため同会場にぼつぼつ人が集り出し、会場からも、政党の代表の意味を聞き度いとの声も出された。そこで井上は司会者として各政党代表の発言を促し、これに応えて、まず社会党の代表として同党南予総支部長山崎某が「(本行政訴訟の)原告が選んだ弁護団についてはわれわれは文句はつけない。原告のいうとおりに支援していく。弁護団がトロツキストだというけれども、われわれはそうは思つていない。確かにトロツキストの弁護活動をしている人はいるけれども、だからと言つて、トロツキストとは考えていない。われわれは原告が望むならば自由法曹団や総評弁護団が加入してもいいと思つている」と発言し、被告元岡はこれを受けて、党の見解を表明するものとして本件発言をなした。

(二) しかして、<証拠>と前掲「愛媛民報」五八五号の記事中三三行目以下の共産党代表などからの発言として報ずる個所に徴すれば、右被告元岡の発言中に原告らが指摘するような「行政訴訟は住民の権利だから、内閣総理大臣を相手取つて訴訟を提起することについて、われわれは原則的にそれを支持する。しかしながら、社会的にも犯罪者集団として信用のないトロツキスト弁護士が主要な役割を果たす裁判闘争は、初めから敗北の路線を走るものだ。従つて現在の弁護団を排除して総評弁護団とか自由法曹団でやるべきだ」との発言が存した事実が認められる。

<中略>

右1ないし3認定のとおりであるから、本件発言及び記事・評論は、いずれもその一部に、原告らが指摘するように、原告らを「社会的にも犯罪者集団として信用のないトロツキスト弁護士」となし、「原告らが代理人であれば本行政訴訟は敗訴する」との表現個所を包含するものと認められる。

<中略>

〔不法行為の成否〕

五さて、原告らは弁護士であるところ、前記背景事情の下に、これを指して、「社会的にも犯罪者集団として信用のないトロツキスト弁護士」といい、「原告らが代理人であれば本行政訴訟は敗訴する」と指摘することは、原告らの弁護士としての社会的信用及び名誉を毀損するものであり、不法行為が成立するものとしなければならない。

蓋し、(一)その前者は、「トロツキスト」なる語が単に社会思想史上の用語として用いられて、ある人をトロツキストと表現したとしても、それが単にその人が抱懐する思想信条に触れたに止まり、且つその語が前記レオン・トロツキーの思想を信奉する者という語の生来的・起源的意義においてのみ用いられる限りにおいては、そこに名誉毀損を問擬する余地は生じて来ないかもしれないが、本件発言及び記事・論評における「トロツキスト」なる用語は、前記三4認定のとおり、被告党及びその同調者によつて、反社会性を有する犯罪者集団であることがかなり意図的に強調されて用いられていたものであり、本件においても右「社会的にも犯罪者集団として信用のない」との文言を頭に置くのは、むしろそれ自体に強い意味があり、単に原告らの思想信条について述べただけに止まらず、原告ら自身が反社会的犯罪者集団に属し又は反社会的犯罪性を有する行動に走り若しくはこれを是認する者である事実を摘示したに等しく、(二)その後者は、被告らの釈明にも拘らず、その言語表現自体の生の響きの中に、前者の表現と相俟つて、原告らが弁護士として信用が置けず、又はトロツキストであるが故に、過激な訴訟戦術に出て敗訴を招く虞があるとの意味合いを感得し得るから、ともに、弁護士としての一般的信用と社会的評価を低下せしめ得る事実の摘示ということができる。

六被告らは、本件発言及び記事・論評は、伊方原発設置反対運動にトロツキストの介入を排除するという公益目的に出たものであるから違法性がないと主張する。但し右主張は、その発言及び記事・論評が「トロツキストにつながる弁護土」であり、「原告らが代理人となつて本行政訴訟が遂行されることにより、反対運動そのものが敗北の路線を辿る」となしたるものであること(被告らは、その事実については真実性があるという)を前提としたものであり、本件発言及び記事・論評の内容が前認定のとおりである場合でも、これにつき真実性の主張をなすものではないと思われるが、本件において右公益目的の有無は、違法性の強度の問題としても主文に影響を及ぼす事項と考えられるので、茲に一応の判断を加えておく。

既に説示のとおり、本件発言及び記事・論評は、トロツキストの反対運動そのものへの介入が容易となることを危惧しそのことを警告しようとしたものとは認め得るが、その表現自体においては、直截に原告ら自身が社会的にも信用のない犯罪者集団であるトロツキストそのものであり、原告らが本行政訴訟の代理人であることによつて該訴訟自体が敗訴する虞があるとしたものである。ところで、前記背景事情に徴すれば、トロツキストの反対運動そのものへの介入の虞は、労学共闘をトロツキストと見る限り既に早くから存在していたものであり、原告らによる本行政訴訟の受任の有無に拘らず、これに対する具体的対応を講ずべき情勢にあつたと思われるのに、そのような動きは必ずしも顕著には認められなかつたところ、住民らが原告藤田らに異議申立を委任する動きが起こると、党県委はこれを思い止まるように働きかけ、三好も従来の土地訴訟の弁護団の強化とともに本行政訴訟についても自由法曹団や総評弁護団による弁護団編成に向けて住民らが積極的に動く必要があると進言していたのに、これが無視された形で原告らによる異議申立及び本行政訴訟の受任となつたことから、被告党及び党県委は、原告らの紹介者である久米及び同人が証人に推せんした水戸が労学共闘とのつながりがあるように見えたこと及び原告らの一部が関西救援連絡センターの協力弁護士として「新左翼」紙に紹介されていたことから、直ちに労学共闘ひいてはトロツキストとを結びつけて、殊更に「原告らが行政訴訟の代理人となることによつて、トロツキストの介入が容易になる」として、具体的には「敗北の路線を辿る」―それが本行政訴訟の敗訴を意味すると受け取られ得ること前記のとおり―として、直接又は間接に原告らの解任を慫慂した宣布活動を開始したことが窺われる。

そうしてみると、右被告党及び党県委の宣布活動及びこれを受け又はこれに同調した本件発言及び記事・論評が、トロツキストの反対運動への介入の虞を警告しこれを排除しようとしたものであり乍ら、敢えて直裁に原告ら自身がそのいわゆるトロツキストであり、原告らが代理する本行政訴訟そのものが敗訴する虞があるとの印象を与える表現を用いたのは、前記目的とともに、本行政訴訟が被告党とのつながりのある自由法曹団や総評弁護団によらず、被告党とつながりのない弁護士によつて遂行されることで、反対運動の中での重要な柱の一つと目された本行政訴訟が党県委の反対運動支援の枠外におかれ、ひいてその余の裁判闘争の支援にも差支えが生ずることを虞れ、これを従来の土地訴訟などと同じく自由法曹団や総評弁護団の支援の得られる三好弁護士の下に回復し、ひいて反対運動全般における党県委の主導性を確保しておこうとの意図もあつて、敢えて原告らの解任を求めるに急な余り、前認定の表現に陥入つたと認められる。

しかして、反対運動全体との関係で、被告党が被告らのいわゆるトロツキストが運動に関与することを排除すべきだとの考え方を持ち、これを党是として公党の立場でこれに基づく一定の宣伝活動を行なうこと自体は、言論及び表現の自由の範囲内にあり、一面においては公益性を認め得ないものでもない。しかし、それが本件の如く、既に弁護士と依頼者との信任による委任関係が成立した具体的訴訟事件につき、その委任関係の解消を慫慂することを主たる目的として、当該弁護士につき不実又は不当な評価を加えてその名誉を毀損する方法でなされるときには、それが前記公党の宣伝活動又はこれに同調する言論活動(表現行為)の一環として行なわれた場合であつても、右手段の不当性がその意図した目的公益性を上廻り、右名誉毀損に当たる部分の表現行為につき違法性を阻却し得ず、言論・表現の自由を逸脱したものと認めざるを得ない。

〔被告らの責任〕

七以上によれば、被告元岡は前記二3(二)認定の発言につきその発言者として、被告党は前記二2(一)掲記の八月二八日付「赤旗」の三宅清昭談話中一今回の訴訟の弁護団は反共分子やトロツキストが介入している」との部分及び同(二)掲記の一一月一三日付同紙の揺れる原発欄一三五行目以下の部分につき各発行主体として、それぞれ前記不法行為責任を有するものと認められる。

なお、右「赤旗」の八月二八日付の記事は第三者の談話中の言辞であり、揺れる原発欄のうち本行政訴訟が敗北の路線を走ることになるとの部分は党県委がその旨警告した事実を報ずる形となつているが、前者については、その談話者は党県委原発対策委員会責任者であることと前認定の右談話の掲載の体裁を含めたその扱い方及び前認定の本件の背景事情に照らし、後者についても前認定のその欄の全文と前記背景事情とに照らし、いずれも被告党において右談話及び党県委の警告を是認し、これに同調するとともに、これを積極的に自党の宣伝活動に援用したものと認め得るから、これらについても被告党が発行主体者としての責任を負うべきものと認められる。

(潮久郎 久保内卓亞 吉田京子)

別紙一〜三<省略>

[別紙四]

謝罪文

わが党は、四国電力伊方発電所原子炉設置許可処分取消行政訴訟に関し、昭和四八年八月二八日付党中央委員会機関紙「赤旗」において、日本共産党愛媛県委員会原発対策委員会責任者の談話として、「今回の弁護団は反共分子やトロツキストが介入しているところに問題があると考えています」と報じ、同年一一月一三日付同紙「揺れる原発」欄において、右訴訟の弁護団の中に「あらゆる民主勢力のたたかいに分裂と紛争のたねを持ち込み、各地の住民運動を混乱におとしいれてきたトロツキスト」の「一味が加わつている」と述べ、及び党愛媛県委員会が「訴訟が敗北の路線を走ることになる」と警告していると報じ、以て同訴訟の原告住民の代理人として、誠実かつ献身的に努力しておられる各位に対し、不当な誹謗と中傷を加え、その社会的信用と名誉を著しく毀損し、その業務を阻害したことを認め、ここに右記事を取り消し、謝罪の意を表します。

昭和  年  月  日

日本共産党

伊方原発行政訴訟弁護団弁護士

藤田一良殿

新谷勇人殿

浦功殿

熊野勝之殿

柴田信夫殿

菅充行殿

仲田隆明殿

畑村悦雄殿

平松耕吉殿

[別紙五]

謝罪文

私、日本共産党愛媛県委員会副委員長元岡稔は、昭和四八年九月一六日愛媛県大洲市農業会館で開催された「いのちとくらしを守る南予県民集会」において、四国電力伊方発電所原子炉設置許可処分取消請求訴訟に関し、「社会的にも犯罪者集団として信用のないトロツキスト弁護団が主要な役割を果たす裁判闘争は最初から敗北の路線を走るものだ」と発言し、以て同訴訟の原告住民の代理人として誠実かつ献身的に努力しておられる各位に対し、不当な誹謗と中傷を加え、その社会的信用と名誉を著しく毀損し、その業務を阻害したことを認め、ここに右発言を取り消し、謝罪の意を表します。

昭和  年  月  日

元岡稔

伊方原発行政訴訟弁護団弁護士

<編注・氏名欄は前掲と同一につき省略>

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